プロフリーダイバー、篠宮龍三さん。トップアスリートとして、世界の大会で記録を樹立する傍ら、海の環境問題についても力を注ぎ、活動していらっしゃいます。そんな篠宮さんをお迎えしての『WHO’S AT BAR』最終回となる今回は、篠宮さんのフリーダイバーとしてのこれからについてお伺いします。

−−3月に東日本大震災が起きて、津波の恐ろしさを世界中の人々が目の当たりにしました。日頃から海に深く関わられている篠宮さんだからこそ、思うところがおありになったと思うのですが…。
篠宮:そうですね…自分としてもとてもショックでした。おそらく一般の人よりは海の怖さといったものも経験しているだろうし、自然の力に対し謙虚に畏怖の心を持つということもしてきたつもりでしたが、それでも。
僕はその時東京にいて、ちょうどプールで練習中だったんですけど、プールの水が大きく波打つ様子ですぐに「これは今までの地震とは違う」というのが直感的にわかって、それが本当に恐ろしかった。
−−海での経験が豊富な篠宮さんが遠く東京にいてさえ感じるそれほどの恐怖なんですから、実際の被災地の状況は想像もつきませんよね。
篠宮:海は素晴らしいけれども、同時にとても恐ろしい場所でもある。どんな場面でも冷静さを保つことがフリーダイビングのまずの条件だ、などと日頃から言っていてもね、さすがに今回の震災には動揺しないわけにはいきませんでしたね。
−−世界中からご心配の声もあったんじゃないでしょうか?
篠宮:そうですね、海外の選手や関係者、ファンからもたくさんのメールやメッセージをもらいました。みんなすごく心配してくれていて。俺の国に来い!っていってくれる選手もいましたね。こういうときはライバルであるとか関係なく、同じものを目指す仲間なんだなって嬉しかったです。

−−海の恐ろしさも改めて痛感したと同時に、海によってつながった絆も強く感じたわけですね。まさに篠宮さんが日頃から提唱してらっしゃる『One Ocean〜海はひとつ』の理念そのものですね。
篠宮:それはしみじみと想いましたね。活動を始めた当初は、世界中の海の環境が破壊されている事実を、実際その海に潜って目の当たりにしている者として伝えていかなければといった強い危機感、使命感があったんです。
でも、活動の中で各地で講演したり、イベントなどを開いていろんな方達と触れ合って新しい関係が生まれていったり…。「海がひとつということは、世界もまたひとつなんだ、海によって人と人とはつながっているんだ」と強く意識させられました。
−−先程の篠宮さんのお話でもありましたし、本当に海外のたくさんの人が日本に対してメッセージや祈りを捧げてくれたことは、印象深かったですよね。
篠宮:そうですね、チャリティでTシャツを作ったりといったことはすでに初めているんですが、どちらかというと震災があったからといって派手に新しいアクションを起こすよりも、今までどおりのことを淡々と続けていこうと思っています。
まだ震災から日も浅く、特に被災地の方たちにとっては震災や海のことをポジティブに捉えることは難しいと思います。ただ怖がっていても前には進めないけれど、かといって無理やり前向きに頑張りすぎても心が潰れてしまう。そんななかで僕は、自分がまずできることはなにか、というのを誠実に地道にやっていこうと思っています。
−−環境保護活動も、今回のような復興支援も、息の長い継続した活動がなにより大事ですよね。
篠宮:ええ。あとは、僕自身の選手としての結果、ですね。9月にギリシャで世界選手権があるので、そこでチャンピオンになりたい。
−−ああ、それはもちろんです。アスリートが世界を舞台に活躍する姿には、日本全体が元気づけられますから。
篠宮:もっとメジャーなスポーツなら、たとえばチャリティ大会を開くだとか、復興支援の選択肢ももっといろいろあるんだと思うんです。でも僕らみたいにマイナースポーツでは、そういった形の大々的な復興支援は難しい。自分はプロのダイビング選手で、自分がまず出来ることはなにかといったら、やっぱりフリーダイビングなので。
−−実際今回の震災で、篠宮さん自身、プロ選手としての活動が困難になってしまったと伺いました。
篠宮:ええ。そもそも、関東近郊でフリーダイビングの練習ができるプールというのは数が限られているんですが、それらの多くが地震で壊れてしまって、夏まで使用は難しいとのことで…。伊豆のほうも余震が続いているし、いろいろと模索した結果、練習拠点を沖縄に移すことにしました。プロとして、まず練習ができなければ、どうすることもできないので…。
−−今年からは、大会運営やオーガナイズのお仕事からは身を引いて、純粋に選手としての活動に専念したいというのは、以前から宣言されていたそうですが。
篠宮:そうですね、震災以前から決めていたことです。でも震災があって、ますます目指すところはクリアになりましたね。
震災当日、練習していたプールから車で家に帰るのに、普通なら一時間くらいで着くところなんですが、十一時間ぐらいかかったんですね。その間、車の中でニュースを聞きながら、被災地にいる多くの知人のことで頭がいっぱいでした。ダイバーの友人やダイビングショップのオーナー、僕のウエアを作ってくれているメーカーも石巻に工場があったりしますし。
この先どうなるんだろう、自分にはいったい何ができるだろう、そんなことばかり頭を巡って。
でも、何ができるかといったら、僕にはまずダイビング、なんですよね。ここで選手としての結果を出せないのなら、何を言っても説得力も影響力も無いですよ。友人知人、以前から僕を応援してくれているファンやスポンサーの方達。そういった人たちの気持ちも背負って、9月のギリシャでの世界選手権に挑みたい。今はただそれだけを考えています。

「母なる海」という言葉を出すまでもなく、太古の昔、人は海より生まれた小さな生命体から進化した存在です。このような未曽有の大災害を受けてなお、篠宮さん曰く「海をそのまま閉じこめたような」青のボトルを見つめながら、グラスを傾けられる喜び、その幸福について今一度考えていきたいですね。
篠宮龍三さんをお迎えしての、『WHO’S AT BAR』いかがでしたでしょうか。次回もどうぞお楽しみに。
取材場所:池袋「Bar Last Fizz」