気鋭のクリエイター、パフォーマーたちとコラボレーションし、世界中のファンを虜にする首藤康之さんをお招きしての、『WHO’S AT THE BAR』。第二回目の今回は、首藤さんがバレエというものに魅せられた、そのきっかけのお話からお伺いします!

−−前回、中学生時代の海外留学の時のお話をお伺いしたんですが。バレエを始めてまだ数年という段階でもあったわけですよね?当時としては、まだ中学生の単身海外留学というのもそう一般的ではなかったと思いますし…。その迷いの無さに、まず感嘆するのですが。
首藤:確かに迷いは無かったですね。もうその頃には僕の中で、心は決まってしまっていて。ダンサーになる、その他の選択肢というものはありませんでした。
−−そこまで、その歳で、迷いなく心を決めてしまった理由や、きっかけというのはあるんでしょうか?
首藤:9歳でバレエを始めて、その頃は単純に、音楽に合わせて身体を動かすということが楽しいなって思っていて。そして10歳…小学校四年生の時ですね、初めて舞台に出たんです。そこで今まで経験したことのない緊張…もう“恐怖”といっていいものを感じたんです。
自分の出番が刻一刻迫ってくる緊張、男の子はひとりだったので一人で踊る演目でしたし。舞台に上がれば自分だけにライトが当たって、大勢の人の視線が集まって…。
−−想像するだに、小学生の男の子にとって恐ろしい状況に思えます。
首藤:でも、そんな感情が、舞台の上で踊っているうちに、得も言われぬ快感へと変わって行ったんです。それはもう、想像もつかないほど大きな、衝撃であり興奮であり、感動でした。
−−舞台の持つ魅力に、パフォーマーとして取り憑かれてしまったんですね。
首藤:そうですね、10歳にして。それは今でも同じですね、今も舞台に上がる前は、その時と同じ…いえ、むしろそれ以上の、緊張と恐怖を感じます。でもその先にある喜びも、またそれ以上ですね。舞台に立つ喜びのためなら何をもいとわないと心底思ったし、今もそれは変わりませんね。
−−「このためになら、何をもいとわない」…。初舞台からずっと、その感動を追い求めて、ストイックに自己表現を追求してこられたんですね。
首藤:ああ、でも皆さんが考えるほど、今の僕自身は「ストイックであること」に重きを置いていないかもしれませんね。

−−そうなんですか?バレエというと、あらゆる芸術の中でも、とりわけストイックなもの、という印象があったのですが。日々厳しく自分を律してらっしゃるというような。
首藤:もちろん、納得のいく表現を追い求める上で、身体を保つこと、そのためのレッスンを欠かさないことというのは大切です。でも、そうしたことは日常の中でごく当たり前のことで…僕にとっては顔を洗うことと同じようなものなんですね。とりわけ何かを我慢したり、必要以上に自分を厳しく追い込んだりというようなことは、今は無いですね。
−−今は、ということは以前は違ったんでしょうか?
首藤:ええ。僕も以前は、バレエの持つそうしたストイックさを素敵だと思っていたし、より高い表現の為にはストイックにならなければいけないと考えて、敢えて自分や自分の身体に対して厳しくしていた時期もあったんです。若い頃は特に。僕の場合19歳で主役を演じるようになった時から、名前のほうが一人歩きしているようなところもあったので…。とにかく、周囲からの期待やイメージに応えたい、という気持ちも強くて。
−−早くから注目を浴びてらっしゃっただけに、プレッシャーも大きかったんですね。
首藤:そうだったかもしれません、でも、その後、自分としても本当にいろんな変化があって…たとえば怪我をして踊れない時期を経験したこともそのひとつですね。先のことも見えず、不安で辛い時期ではありましたが、そういうことがあったからこそ、自分と身体の関係性ついて、自分なりにしっかり見つめ直すこともできたのかなって。
よく思うのは、自分と自分の身体の関係というのは、男女のカップルみたいなものだなっていうことなんです。その関係性がとても似ているなって。
−−身体との関係が、男女のカップルに似ているんですか?それはなかなか意味深ですね、どういった部分で?
首藤:恋人同士の関係って、すごく熱く盛り上がっているときもあれば、倦怠期の時期もあったり、いろいろでしょう?いつもいつも同じではないですよね。毎日違うといってもいい。
−−確かにそうです。どちらか片一方が燃え上がっていても、相手が同じテンションだとは限らないなんて場合もあります(笑)。
首藤:そんなとき、相手を顧みず自分のことばかり押しつけるようでは、上手くいくものも上手くはいかないですよね。自分と身体の関係も、そういったことと似ています。自分の身体の状態を無視して、こうあるべきだと頭から決めつけて無理強いしても、良い結果にはならない。
−−時には甘く優しく扱ったりすることも“恋人”の間には必要ということですね!
首藤:そうですね(笑)。そういった時間を持つことが、お互いの関係性を豊かにしてくれることもある。逆に、適度な緊張感が必要なときもありますし…。日々のお互いの状態によって、よく相談して。お互いを理解して長く付き合っていく上では、そのプロセスが、まず大事なんじゃないかと。
−−何が起きても、そのプロセスを楽しむくらいの気持ちでないと。
首藤:本当に。自分がここにこうして存在していることも、いろんな、人や物事との関係で成り立っているわけですよね。自分の身体についても、すべて自分の思い通りにできると思うことのほうが不自然なんじゃないかと今は思っていますね。そう考えられるようになって、やっと自分が自由になれた気がしています。
バレエに魅了されたきっかけと、その後のバレエとの向き合い方。シビアでプロフェッショナルな世界で、お互いを尊重しあう運命の恋人のようなバレエについて、そしてご自身との身体との関係性を語る首藤さんのお話、いかがでしたでしょうか。
次回『WHO’S AT BAR』では、首藤さんとお酒との関係をお伺いします。お楽しみに!
取材場所:青山「BAR FRAU」