古典の名作における溜息の出るような美しい王子の姿を完璧に現代に再現させたかと思えば、前衛的なコンテンポラリー・ダンスでバレエの世界に新たな地平を切り拓いていく。今世界中から熱く注目されているバレエダンサー、首藤康之さん。ストリートプレイや映画などにも出演し、幅広いファンを獲得なさっています。現在、ファン待望の日本公演の真っ最中である首藤さん。今回の『WHO’S AT BAR』では、バレエという表現を通じて、「究極の美」を追求しつづける、首藤さんの魅力に迫ります!

−−現在、三ヶ月連続、しかも一ヶ月ごとまったく趣向の違う演目での公演の真っ最中ということで、そんな中お越しいただいてありがとうございます!かなりお忙しい毎日でいらっしゃると思うのですが…。
首藤:そうですね。ここのところはずっと海外での公演が多かったので、忙しいのも事実ですが、嬉しさのほうが勝ってます。
−−7月からは、2008年に公演したパントマイムをベースにしたフィジカルパフォーマンス『空白に落ちた男』の再演をPARCO劇場で、8月は豪華キャストによる『ローザンヌ・ガラ2010』。
そして9月にBunkamuraオーチャードホールで公演が予定されている『アポクリフ』は、ベルギーでの初演以来、ヨーロッパ各国で軒並み完売という大評判の作品が満を持しての日本初演、ですよね。
やっと見ることができると楽しみにしている日本のファンも大勢いらっしゃるでしょう。
首藤:ええ、僕としてもやっと日本の皆さんに見ていただけると思うと嬉しいです。もっと早くに日本でもやりたかったのですが、各国をまわっていたら、いつの間にか三年もかかってしまって。
−−やはり日本での公演となると、ご自身の意識も違ってくるものですか?
首藤:どうでしょう、日本だから、自分の踊りの何が変わってくるということはないかもしれませんが、やはり東京は、他の都市と比べても、面白くて刺激的な都市だなというのは、思いますね。知れば知るほど魅力的だし奥も深い。ダンサーとして、そういった場所をベースにできることは、とても嬉しいことです。
−−国際的に活躍されている首藤さんから、そういったお話を聞くと、嬉しく思うと同時に少し意外な気もします。バレエというと、やはり海外が歴史の発祥で、今もって本場であるといったイメージもあるので…。
首藤:そうですね、僕もバレエを始めた当初はそう思ってました。バレエは西洋のもので、日本の文化とは一切無関係なものだというような。でもそんなことはないんですよ。

−−そういったお考えが変わったのはいつ頃からなんでしょう?
首藤:中学時代に、海外にレッスンを受けにいったときからですね。海外のバレエ団が主催するサマースクールに夏の度に参加していたんですが、そこにはいろいろな国から同じ世代のダンサーの卵たちが集まってきていて、みんなで一緒にレッスンをするんですね。
で、とにかく自分の国のことを聞かれるんです。また、外国の人たちって、そういうことを話すのが上手なんですよね。自分のアイデンティティとして、自分の国のことを語るのが。
−−バレエを極めたくて、日本にはない文化を吸収したくて海外に出向いたのに、そこで求められるのは「日本」だったわけですね。
首藤:そうなんです。それまでの僕は、バレエという西洋の文化に憧れて、日本にいながらそればかり考えていたから、日本についてだとか、日本人としての自分なんてものを考えたこともなかったんです。だから、すぐにはみんなのようには上手く言えなかったし、はじめのうちはその問いかけの意味もわかってなかったと思います。
−−中学生くらいの年頃で、そんなことをすぐに上手く話せる人はなかなか…。でも、当時の首藤さんは、考えざるをえない状況に追い込まれた、と。
首藤:ええ、必死に考えました。とにかく、バレエであれ他のなんであれ、自分で何かを表現することというのは、そこに…「自分の中の日本」というものに向き合うことなんだ、というのは、その時にまず学んだことですね。
−−首藤さんは、出身の大分で9歳の時にバレエをお始めになって、中学生の時にはもう、単身海外でのそういったレッスンに参加してらっしゃって。随分早い段階で世界を視野に入れた意識をおもちだったんだなという印象なのですが。
首藤:どうでしょう、早いのかな?でも確かに、東京に住んでいたら、逆にそこまで海外へ、とはならなかったかもしれませんね。九州にいて、とにかくバレエについて本格的に学びたいと思ったら、中学生の頭では海外に行くことしか思い浮かばなかったんです。最初はニューヨークへ行ったんですが、それも当時「海外=アメリカ」だと思い込んでいたからなんですよね(笑)。
−−他の外国のことは知らなかった(笑)。でもニューヨークに中学生が単身留学というのはなかなかに大胆な選択だと思うのですが。ご両親は、反対なさらなかったんですか?
首藤:反対はされませんでしたね…どうしてだろう(笑)。今でこそ随分安全になりましたけど、当時のニューヨークですからね…。今自分がこの歳になって考えてみると、かなり無茶な話ですよね。
−−でもそうして「見る前に跳べ」というような姿勢は、今の首藤さんの、国境やジャンルを超えたご活躍にも通じる気がします。
首藤:それはそうかもしれません、家族には心配をかけたかもしれませんが(笑)。
九州・大分でバレエに魅せられた少年のまなざしのまま、今もなお世界を自分の庭のようにして活躍を続ける首藤さん。その姿は、まさに世界中のファンを魅了した、美しくダイナミックな跳躍にも似ています。
次回『WHO’S AT BAR』では、バレエというものに魅了された理由に迫ります。お楽しみに!!
取材場所:青山「BAR FRAU」