今回が四度目のご来店、いよいよ最終回となりました、五嶋龍さんをお招きしての『WHO’S AT THE BAR』。家族全員がヴァイオリニストで、お姉様はやはり天才ヴァイオリニストとして名高い五嶋みどりさん。そうした家庭環境の中で、七歳の頃からヴァイオリニストとして活躍を続ける、五嶋さん自身が見つめる、今現在の「等身大の自分」とは?
−−7歳でヴァイオリニストとしてデビューするという、普通でも衝撃を持って迎えられるデビューに加えて、お姉様の五嶋みどりさんの存在というのもあり。そうやって幼少の頃から今まで、ずっと注目され続けるということに関して、やはり思うところはあるのでしょうか?
五嶋:そこに何も思わないといったら嘘になりますよね。正直、「煩わしい」って思うこともありますよ(笑)。プライバシーはやっぱり欲しいですしね。でも結局、一長一短というか。ヴァイオリニストとしてではなく、何事においてもそういうものだって思っているので。
−−良い面と悪い面、必ずあるというような?
五嶋:そうですね。こういう環境に生まれて育ったからこそ、自分の中のポテンシャルを見つけることができたし、またそうして見つけた長所をうまく伸ばしてもらえた、活かす道を与えてもらえた。それは僕に他では得られない大きなものをもたらしてくれているから。その代わりに引き受けざるを得ないものがあっても、それはそれで、そういうものだなって。compromised、日本語で言うと、譲歩、とかかな?歩み寄るというか。
−−そこにとりわけ葛藤があったわけではない、と。
五嶋:葛藤とか、そういうのは全然無いですね。ヴァイオリンを選んだことに、何かしらきっかけのようなものはあったのかもしれません。でも単純に、父や母、姉、みんなヴァイオリニストだったから、同じようにヴァイオリンを手にすることは、僕にとってはあまりにも当たり前のことだったんですよね。ごくごく普通に、小さい頃から「自分もやることになってる」って思っていた(笑)。
−−空手との出会いのお話もそうでしたが、ナチュラルに流れに身を委ねるというような、自然体のスタンスが生まれながらに身についてらっしゃる感じですね。
五嶋:はい、そういったものに抗おうとか逆らおうという欲求みたいなものは敢えて感じたことはないですね。そうやって自分の身に起こることは、どこかで起きることがすでに決まっているってことだと思いますし。何でもありのまま受け止める・・・なんというか、僕は、物事をありのままに受け入れる、ずっとそうしてきたから。
−−自分の将来に不安を感じたり、他の選択肢がまだまだあるんじゃないか、と道を決めるのに迷ったりっていうことも、無かったわけですよね。
五嶋:そういう迷いや不安はないですね。今の環境に100%満足しているってわけじゃないけれど、でも、この環境が今までずっと僕の行く道を開いてくれたわけだし、それは同時に、この先の新しい扉を開くことにもつながっているってことだと思うから。だから今まで通り、ありのまま受け止めて、それに従っていくだけでいいんだという想いが常にあります。
−−なるほど。道は常につながって、続いているんだけど、むしろその「新しい扉」の先にあるものが、常にヴァイオリニストとしての道かどうかはわからない、ってことでしょうか?
五嶋:そうですね、先のことは誰にもわからないから(笑)。将来、わがままを言ってヴァイオリニストではない違う道に進むことも、もしかしてあるのかもしれないですよね。
−−でも、自分からどうこうしよう、みたいな考え方は無いってことですね。
五嶋:そうです、それはその時になってみればわかることだと思うから。たとえ違う道を選んだとしても、それは、僕にとってはブレイクではないんです。ずっと、今まで通り続いてきたものの、続きでしかない。
−−五嶋さんの演奏自体からも、同じような印象を受けます。肩に力が入ったところがないというか、曲のほうをねじ伏せて自分のものにしようというような印象がないですよね。
五嶋:そうかもしれないですね。コンサートツアーでも、プログラムとしては結構クラシック中のクラシック、みたいな感じの曲目なんですが。だからっていかにもクラシックっぽくまとめるつもりはないし、逆に無理して斬新な解釈を加える必要も無いと思っていて。ありのままの今の僕が弾くことで、聴く人の耳にフレッシュに響かせたい。そんなふうに聴いてもらえたらいいなと思っています。
ヴァイオリン、空手、物理学。今まで、ひとつひとつ積み重ねてきた努力とその結果が、自信となって揺るぎなく支えているからこそ、ありのまま自然でいられる、そんな五嶋龍さんのインタビューでした。四回にわたってお送りしました、世界中の聴衆を魅了する若き天才ヴァイオリニスト・五嶋龍さんの『WHO’S AT BAR』いかがでしたでしょうか。次回のお客様のご来店も是非お楽しみに!
取材場所:マンダリン オリエンタル 東京「マンダリンバー」