ミュージシャンの菊地成孔さん、二度目のご来店となります。今回は、音楽とお酒についてのお話などをお伺いしたいと思います。ご自身では、お酒をとことん楽しめるようになったのはここ数年、とおっしゃる菊地さんですが、それでもお酒にはやはり菊地さんらしいこだわりがあるようで・・・。
菊地:前に、Bunkamuraオーチャードホールでコンサートをやったときに、ウェイティング・バーを設置したことがあって。そのプロデュースをやったときは楽しかったですね。そのコンサートホールの雰囲気に合わせて、お酒を選ぶっていう。
−−ちなみにどんなお酒を選ばれたのでしょうか?
菊地:そのときは、ワインだとかシャンパンだとか・・・、3~4種類だったかな。全部にね、自分の曲のタイトルをつけて。その曲をイメージして飲んでもらいたいという趣向だったんです。第一部が終わって、ロビーのフロアに出て、またそういった酒を楽しんでもらってから、また音楽を聴く、という流れで。
−−素敵ですね!ファンは、今聴いたばかりの音楽の余韻に、その曲をイメージしたお酒とともにもう一度浸れる…。最高に贅沢なひとときなんじゃないでしょうか。
菊地:そうですね。よく、ソムリエが料理に相応しいワインを選んで組み合わせることを「マリアージュ」(結婚)っていったりするじゃないですか。この場合、料理に代わって、音楽とワインの「マリアージュ」を僕がプロデュースする、そんなイメージでした。
−−たとえ幕間の短い時間であっても、そういった趣向が凝らされていると、単なる休憩時間が演奏会の一部に変身する。素晴らしいアイデアです。
菊地:やっぱり雰囲気は大事というか、とくにオーチャードホールみたいな場所でやるんであればね、そのホールの持つ空気すべてを楽しんで欲しいと思うし。そういうものも含めて、そこで聴く音楽を深く味わう要素として欲しいというか。おかげさまですごく評判もよくてね、必ず完売してましたね。
−−そのコンサートにいらしたファンは、音楽と美酒、両方に酔いしれる夜になったということですね。そういえば、音楽もお酒も、“酔う”と表現したりしますけど、菊地さんは、音楽とお酒というのは、似ているものだと思われますか?存在として近い、といったような。
菊地:うーん、どうかな・・・。音楽そのものは、酒ではない、違うものなんじゃないかな。音楽は、時には酒にもなりうるけれど、時には薬にもなりうるし、時には宗教にもなるから。音楽と酒は、いいパートナーといったところじゃないでしょうか。
−−まさに「マリアージュ」ですね。お互いを補い合って、より素晴らしい関係を築くことができる間柄。
菊地:うん。たとえば、僕がバーに対して「あの店いいよね」と思うとき、それは、お店にかかっているBGMの選曲がいいとか、そういうことだったりしますよ(笑)。ほら、酒に対してはまだ見解が浅いから、その店にかかってる音楽とか、DVDのセレクトがいいとか、そういった部分は結構重要になってくる。単純に、居心地が良い、自分とフィーリングが合うか合わないかというような。
−−バーの魅力はまずその雰囲気、そこを重視なさるということですね。
菊地:もちろん、一番大事なのは、良いバーテンダーさんがいるということだと思いますけれどね(笑)。そこは他のものでは替えがきかない部分だから。ただ、それだけじゃないですよね。あるバーに、物凄く腕の良いバーテンダーさんがいて、物凄く美味しいカクテルを出してくれたとしても、もしそのバーテンダーさんが愛想が悪かったりしたら、僕はその店には二度といかない。レストランなんかでもそうなんだけど、そういうのが一番嫌いなんです。どれだけ美味しいお店でも、シェフが高飛車だったりして、こっちが気を遣っちゃうようなお店ってあるでしょう。気持ちよく食事できないなんて店はまず評価しないですね。なにごとも人柄って大事です(笑)。
−−心地良い時間を過ごして欲しいという心みたいなものが随所に感じられると本当に嬉しいですよね。
菊地:そういうところ全部含めて、サービスだと思うんですよね。何も「こっちはお客なんだからもてなせ」って言いたいんじゃなくて、「あなたは、人に楽しく過ごして欲しいからこういう仕事をしてるんじゃないの?」っていう、そこが言いたいんですよね。
−−コンサートの、ウェイティングバーのお酒のセレクトにまでこだわる、菊地さんがおっしゃるといっそう含蓄のあるお言葉ですね。味わう人に楽しんでもらいたいという、気持ちがまず一番にある。
菊地:でもまあ、音楽と酒はやっぱり同じではないですね。バーのほうが総合的というか。だってバーでかかっていたBGMの音楽を聴いて、その曲やアーティストを知って、それを気に入るということはあっても、あの曲がかかってるからあのバーに行こうよっていうふうにはなかなかならないでしょう?(笑)。音楽に、人をバーに牽引する力はとりあえず無いってことだから。
いろいろなジャンルに幅広く活躍の場を持つ菊地さん。表現のかたちは違っても、対象をより深く愛し楽しむための見方、考え方を私たちに鮮やかに提示してみせてくれるという点はすべてに共通しています。次回は引き続き、菊地さんの音楽についてのお話をじっくりお伺いします!お楽しみに。
取材場所:「recoa」