サックス奏者として、また類い希なソングライター、ボーカリストとして、数々のアーティストたちとコラボレーション、ジャズというジャンルに留まらぬ独自の世界観をもった音楽性を存分に発揮。はたまた文筆家として数々の著作を上梓し、そのユーモア溢れる語り口と深く広い知識と教養で大学でも教鞭を振るう。誰もが驚嘆せずにはおれない、まさに八面六臂の活躍を続ける菊地成孔さん。

ご自身が率いる「菊地成孔DUB SEXTET」のライブ翌日というハードスケジュールの中、お越し頂いた菊地さんを、まずはボンベイ・サファイア コリンズでお迎えしました。
−−日頃はカクテルなどよく飲まれますか?
菊地:うーん、どうだろう、日常的に飲むとは言えないかな。僕が酒を飲むシチュエーションって、80%は食事と一緒に、ってパターンなんですよね。だからやっぱりワインや日本酒のほうが機会は多いですね。…というか、僕ね、酒を人並みに楽しめるようになったのって、ここ数年のことなんですよ。それまでは、味はものすごく好きではあったんだけど量は飲めなかったから。
−−それは少し意外なお話です、その変化にはなにかきっかけがあったんでしょうか?
菊地:3~4年前に煙草をやめたんです。そのときから急に量が飲めるようになった。でも精神的なものもあったかもしれないなあ、僕の実家は千葉の歓楽街にある小料理屋なんです。毎晩酔客を扱っているわけで、子どものころから、そういうのを見てきて、何か思うところがあったのかもしれないですね。やっと、そうしたトラウマを気にしないですむ歳になったということかも。
−−今回菊地さんの為にご用意させていただいたのは、ボンベイ・サファイア コリンズというカクテルです。カクテルの中ではシンプルでオーソドックスなタイプのものですが、お口に合いましたでしょうか?
菊地:うん、さっぱりしてて美味しいですね。そのシンプルさも、すごく今風って感じがする。
−−今風、というのはどういったところからの印象でしょう?
菊地:シンプルで、すっきりした味で甘過ぎないし。でもただシンプルっていうのじゃなくて、ちょっと気が利いてる。香りが独特ですよね、飲む人の心をぱっと掴む、変わった香りがするところがいい。あと、色。この透明感が、すごく綺麗で清潔感があって、現代的。
−−さすが、視点が分析的ですね!ひとつひとつ納得のいく考察です。
菊地:はは、そんなに大げさな話じゃないんだけど(笑)。でも、こんな言い方して良いのかわかんないけど、「これは売れる」って感じがしました(笑)。
−−視点がすでにマーケティングの方向へ(笑)。お酒は主に食事と一緒に、ということでしたが、ではバーにもあまり行かれたりはしませんか?
菊地:そうですねえ、そうしょっちゅうではないけど、ここ1〜2年はそういう場所にも自主的に行くようにはなったかな。結局ね、酒をいろいろと楽しめるようになったのが最近だから、バー経験も浅いわけで。行きつけの店も何軒かあるんだけど、いつも同じの飲んでたりとかね。
−−なるほど。バーに行かれても、あまりいろいろトライしたりはしないという。
菊地:そうそう。料理は昔から好きでこだわっていろんな店に行ったり、新しい、たとえば創作料理みたいなものも好きなんだけど。酒はまだそこまでいってないんですよね、たぶん。カクテルも、すごく古風な、オールドファッションなものが好きですね。ドライマティーニとかシンガポール・スリングとか。
−−それなら、このボンベイ・サファイア コリンズも抵抗なく飲んでいただけそうですね、良かったです。
菊地:うん、美味しくいただいてます(笑)。話していて思ったけど、カクテルってすごくいろいろな要素があって、可能性たくさんありますね。
−−そうですね、今お話していただいただけでも、味、色、香り…。
菊地:こうやってシンプルなのもいいし、派手にしようと思えば、色あいはもちろん、飾りなんかもフルーツ盛ったり、花咲さかせたり(笑)。ミックスの仕方もいろいろあって、それぞれ味わいが違うわけでしょう。グラスの形なんかもこだわったり。オーセンティックなものを基調にしても、いろんなバリエーションが楽しめるし、どんどん新しいものが作っていけますよね、カクテルって。
−−まるで菊地さんの音楽性のようですね。そういう、アレンジや組合せの妙によっていかようにも、というところは、音楽やファッションにも近いんでしょうか。
菊地:似たところはあるかもしれないですね。…あ、それで思い出したけど、そういえば最近、コニャックをスプライトで割ったカクテルっていうのに凝ってました。
−−スプライトで?それはちょっと変わってますよね、あまり聞いたことが…。
菊地: Ludacris(リューダクリス)っていうアメリカの東海岸のHIPHOPアーティストの曲にね、あるんですよ。リリックの中に“Mixin’ Henney wit da Sprite”って、そのまんましっかり出てくる。『One more drink』っていう曲で、僕この曲のミュージックビデオが凄く好きなんですけど、そのミュージックビデオの中にも、それを作って飲んでるシーンがちゃんとあって。へー面白いな、と思って結構飲みましたね、あれは。
−−その斬新な組合せが、いかにもHIPHOP的アプローチって感じがしますね。
菊地:そう、わざわざ高級な酒にジャンクなスプライトを混ぜちゃうっていう、いかにもそういうナスティな黒人たちらしい発想ですよね(笑)。高級ブランドの服をわざと下品に着崩してみたりだとか、アイツらそんなことばっかりやってる(笑)。
詳しくないと言いつつも、たった一杯のカクテルから、次から次へと繰り出される、菊地さんならではのユニークな考察、発想、イメージ。音楽のお話も飛び出したところで、次回は音楽とカクテルの関わりについて、引き続き興味深いお話を伺います。どうぞお楽しみに!
取材場所:「recoa」