今夜のお客様は、ミュージシャンのカヒミ・カリィさんです。誰の耳をも虜にする印象的なウィスパー・ヴォイスと、ミステリアスなその美貌で、90年代に起きた渋谷系ムーブメントの歌姫として君臨、現在も国内外・ジャンルを問わず活躍を続けるカヒミさん。2006年には「いちばんきれいな水」で映画デビューも飾られました。まずは、そんな映画出演のお話からお伺いしました。
--少し前になりますが、映画にご出演されたときのことを少しお聞きしてもいいですか。ずっといろんなアーティストとのコラボレーションなど、多方面に渡って活動されているカヒミさんですが、映画の出演というのはファンにとっても大きなサプライズだったかと思うんですが。
カヒミ:そうですね。実はこれまでも何度か、映画出演のお話もいただいていたんですね。でもお話はありがたいとは思いつつも、ずっとお断りしていたんです。演技については当然素人ですし、私には無理だと思って。

--それが、どういった心境の変化で引き受けることに?
カヒミ:「いちばんきれいな水」の時は、いただいた役…真理子というんですけど、彼女の設定年齢や考え方がすごく自分に近くて共感できることが多かったのと、監督さんも、無理に作ったり演技しようとしなくてかまわないとおっしゃってくださったので…。素直に、やってみようかなという気持ちになれたんです。
--“真理子”はカメラマンでしたね、カヒミさんも写真を撮るのが趣味とお聞きしております。
カヒミ:私にとっての写真は本当に趣味のレベルで、もちろん真理子のようにプロというわけではないので、そこに共感というのもおこがましいですけど。でも自分の趣味の中でも一番長く…十代の頃からずっと大事にしてきたものだし、真理子にとっての「写真」が、私にとっての「音楽」とすると、すんなり理解できるところもあって。キャラクターと素の自分を自然に重ね合わせることができたというのはありますね。
--実際、役者というものを経験してみてのご感想はいかがでしたか。
カヒミ:難しかったです(笑)。やっぱり、いくら作らなくてもいい、そのままで良いと言われても、そう簡単にはいかないですよね。でも、それと同時に、思った以上に、自分が日頃やっている音楽のお仕事との共通点というのも、多いなと思いました。
--たとえば映画は、台本はあるけれども撮影は台本通りに進行するわけじゃなく、コマ切れでシーンをバラバラに撮影したりしますよね。そういった点で、歌や音楽と違うとか、なかなか気持ちを込めていけない、なんていうことは無かったんでしょうか。
カヒミ:その点は大丈夫でした。というか、音楽も、最初即興で演奏してから後でメロディをつけていったり、一部分を繰り返し試行錯誤したりというのはよくありますから。

--曲作りの段階や、レコーディングの時などの制作過程は近い、と。
カヒミ:いえ、そこに限らなくても。私、音楽っていうのは、他のミュージシャンたちと会話をしているようなものだなっていつも思うんですよね。音楽も、ある見方をすればひとつの「物語」のようなもので、お話と同じように始まりがあって終わりがあって。他のミュージシャンたちと一緒に、そのひとつの物語に対して気持ちを沿わせていく、というようなものだと思うんです。映画で他の役者さんたちとセリフのやりとりをするときに、ああこれってミュージシャン同士のやりとりと同じだなって、すごく感じましたね。
--ああなるほど。映画にはシナリオ、音楽には楽譜があるけれども、それを“プレイ”するのは、役者でありミュージシャンで、みんなが力と気持ちを合わせてひとつの物語を作っていく、ということですね。
カヒミ:そうですね。そうやって人が複数関わることで、素敵な思いがけないハプニングが生まれたり…。そういった面で、すごく近いと思うし、自分も映画は初めてだったけれども、やっていて違和感がなかったです。
--映画出演をされたことで得た経験は、カヒミさんの本業である音楽の面にも影響を与えたりといったことは、あったんでしょうか?
カヒミ:特に大きな影響というのは…。というのも、あの映画は、私が参加させていただいたのはほんの一部、撮影日数にしたらほんの三日くらいのものだったので、あっという間に終わってしまって(笑)。とても貴重な、希有な体験をさせていただいたと思っていますが、特に目に見えて劇的な変化や影響は、無かったんじゃないかしら。ただ、映画を制作する側に対してのリスペクトは、以前よりぐっと深まりました。
--いっそご自身でメガホンを取るなんていう展開は?無いんでしょうか?
カヒミ:いやぁ…それは無いですね(笑)。若い頃には、夢物語として、単なる憧れとして「映画も撮ってみたい」なんてふっと思ったりしたこともあったんですけれど。実際参加してみて、「映画を撮るって本当に大変なんだなぁ…」ってしみじみと(笑)。
--そんなに、大変なんですか。
カヒミ:それはもう。映画は、本当にたくさんの、大勢の人が関わっている大きなプロジェクトなので。あの人数を、監督さんがほとんど一人でまとめ上げなければならない、その労力を考えただけでも気が遠くなるくらいな。それに比べたら音楽は、ずっとずっと少人数ですから。私が映画を撮るのは……来世でいいかな、なんて(笑)。
映画出演のお話から、話題はやっぱり本業の音楽のほうへ。次回は、新作のレコーディングも控えているというカヒミさんに、音楽についてのお話をお伺いします。