第10話
グラスに相応しい、お酒の楽しみ方がある。
グラスでお酒の味はがらりと変わる。これは紛れもない事実である。縁の厚みや形状で、お酒が口内に流れ出す量や勢いが変わる。外側に開いた形のグラスは香りを発散し、反対に内側に閉じた形のグラスは香りを閉じ込める。
あらゆるお酒には、それを味わうのに相応しいグラスがあり、相応しい飲み方がある。例えばカクテルグラスで供されるショートカクテルは氷でよく冷やされているが、浅くて広いグラスの構造上、あっという間にぬるくなる。つまりこのグラスで出されるお酒は、短時間で飲み干されることを望んでいるのだ。容量も90mlであるから一息で飲み干せない量でもない。日本の盃と同様、ちびちびやるのは野暮だし、酒の味も落ちる。
それとは反対に、オールドファッションドグラス、いわゆるロックグラスで出されるお酒は、ショートカクテルのようにぐいぐい飲んでは味気ない。このグラスをゆっくりと傾けている人は、「どうか私を急かさないでください、今夜はゆっくり楽しみますよ」と無言で宣言しているのである。ロックグラスの氷がカランと鳴る音で、老練なバーテンダーは残りの量がわかるという。大人の時間に相応しいグラスだ。

タンブラーは、ロングカクテルを飲むのによく使われる万能グラス。10オンス(300ml)や12オンス(360ml)などの種類があり、ジュースにビールに水割りにと用途が広い。このグラスで飲むお酒のアルコール度数はおおむね5度〜15度程度と軽く、食事やおしゃべりのお供にぴったりだ。
グラスの種類は、まだまだたくさんある。ワイングラス、ブランデーグラス、シャンパングラス、ゴブレット、リキュールグラス、シェリーグラス、コリンズグラス、サワーグラス……。グラスの種類に比例して、カクテルのバリエーションも無限に広がる。バーで飲み物のチョイスに迷った時は、今はどのグラスで飲みたい気分なのかを考えてみるのもいいだろう。
お酒は嗜好品なので、好きな時に好きなものを飲めばそれでいい。それがTPOに合っていればなお素敵だし、相応しい飲み方を心得ている人には大人の魅力がある。グラスは、お酒を飲んでいる時だけに身につける装飾品のような存在であり、飲み手の個性をさりげなく引き出す名脇役なのだ。