第8話
ジンを何で割るか。香りの足し算が生む、未知のフレーバー
カクテルブックを紐解けばよくわかることだが、ジンはカクテルベースに使用されるお酒の王様である。ジンを何で割るかという問題が、カクテルの歴史を作ってきたと言っても過言ではないだろう。
ジンとトニックウォーターとの相性が良いのは、第4話で述べたとおり。しかしお酒好きには「甘いのが苦手」という方も少なくない。そこで大きめのライムを絞り、無糖のソーダで割るのがジンリッキーである。ライムの自然な甘味が、実に爽やかだ。ソーダとトニックウォーターを半々にした「ちょい甘」のジンソニックは、おそらく日本のバーテンダーの造語だろう。

ジンをジンジャーエールで割れば、ジンバックとなる。ドライジンと生姜の辛さが交じり合い、逆にまろやかな深みが生まれるのがカクテルの妙。ジンフィズやトムコリンズのような口当たりの良いカクテルも、ジンの切れ味があるからこそ美味しく飲める。ジンフィズに卵を入れたロイヤルフィズなどは、ほとんど料理の域に達している。
昨秋、漫画家の安野モヨコさんが、週刊文春の連載「くいいじ」の文中で「ボンベイ・サファイアをエルダーフラワーのシロップと水で割って飲むと美味しい」との発見を紹介していた。エルダーフラワーはマスカットのような香りを持ち、風邪や喉の痛みにも効くアルプスのハーブ。考え尽くされたと思われているロングカクテルにも、まだこんな未知の領域があるのだ。
お酒の個性が強いほど、カクテル作りは楽しくなる。アルコール度数47度のボンベイ・サファイアは、何かで割って飲まれることが多い。しかしながら度数を下げて飲みやすくする「引き算」が、カクテルの魅力ではない。10種類のボタニカルに新たなフレーバーを加える楽しさが、サファイア・ミックスの世界を無限に広げてくれる。